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第 6 章 粒子流入と表面からの電子放出

数密度で規格化した位相空間分布を fs(v)f_s(\bm{v})、内向き法線速度を vn=v⋅ninv_n=\bm{v}\cdot\bm{n}_{\mathrm{in}} とすると、境界流入束は

Γs=∫vn>0vnfs(v) ⁣d3v.\begin{equation*} \Gamma_s=\int_{v_n>0}v_n f_s(\bm{v})\mathop{}\!\mathrm{d}^3v.\tag{6.1} \end{equation*}

境界を横切る粒子は vnfsv_n f_s から標本化する。体積中の Maxwell 分布をそのまま境界速度へ使うと、低速粒子を過剰に注入する。

法線ドリフト unu_n、一次元熱速度の標準偏差 s=kBT/ms=\sqrt{k_{\mathrm B}T/m} を持つ Maxwell 分布では

Γ=n[s2πexp⁡ ⁣(−un22s2)+un2erfc⁡ ⁣(−un2s)].\begin{equation*} \Gamma=n\left[ \frac{s}{\sqrt{2\pi}}\exp\!\left(-\frac{u_n^2}{2s^2}\right) +\frac{u_n}{2}\operatorname{erfc}\!\left(-\frac{u_n}{\sqrt2 s}\right) \right].\tag{6.2} \end{equation*}

流入面積 AfA_f とバッチ幅 hh に対し、macro 粒子数の期待値は

E[Nmacro]=ΓAfhw.\begin{equation*} \mathbb E[N_{\mathrm{macro}}]=\frac{\Gamma A_f h}{w}.\tag{6.3} \end{equation*}

整数化の端数を後のバッチへ持ち越すことで、長時間の流入量を表す。図6.1は、drift が零の場合に体積分布と流束分布がどのように異なるかを示す。

体積分布と境界流束分布の違い

図 6.1 drift のない Maxwell 分布から導いた、正の法線速度の二つの規格化分布。横軸 uu と縦軸 p(u)p(u) は無次元で、各曲線の u≥0u\ge0 の積分は 1 である。流束の標本には vnv_n による重みが必要であり、低速極限で流束密度は零になる。数値実験の histogram ではなく解析式の図示である。

粒子は、計算箱の外部境界からの流入、内部の面源、体積内の標本として生成できる。外部プラズマは、境界の外側に一様な分布を仮定した reservoir からの流束(式(6.1))として入れる。

Maxwell 分布以外の分布は、速度格子上の表で与える。表が位相空間分布なら式(6.1)に従って vnv_n を掛けて流束の分布にし、既に流束で重み付けした分布ならそのまま標本化する。分布の形の規格化と、物理的な流束または電流密度による振幅は別に与える。

Maxwell 分布の標本化は平均から ±6s\pm6s で打ち切る。通常の熱分布では無視できる tail でも、障壁を越える希少な粒子が目的量を支配する場合には打切りの影響を確認する。

6.3 上流無限遠の分布と面平均電位による補正

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境界上で分布を直接与える方法のほかに、上流の基準電位 ϕ∞\phi_\infty での分布を与え、境界面の平均電位 ϕf\phi_f を用いて

12mvn,f2=12mvn,∞2−q(ϕf−ϕ∞)\begin{equation*} \frac12m v_{n,f}^2=\frac12m v_{n,\infty}^2-q(\phi_f-\phi_\infty)\tag{6.4} \end{equation*}

によって到達条件と法線速度を補正する方法がある。qq は符号を持つため、電子と正イオンでは応答が逆になる。必要なエネルギーを持たない上流粒子は到達流束へ含めない。

この補正は面平均による一つの電位障壁の近似である。箱外の三次元電場、飛行時間、磁化された軌道、途中の非単調電位は解かれない。面内電位差が大きいケースでは、面平均による流入の誤差を評価する。外向きに箱を出る粒子を単に escape とするか、障壁により反射するかは別の境界作用である。

箱の面上の開口から照射 ray を発射し、最初に命中した要素から光電子を放出する。遮蔽と可視面積が命中率に反映されるため、全表面へ同じ放出量を一律に置くモデルではない。 ray は次の箱の面までの区間ごとに最初の命中を探す。非周期の面に達した ray は放出せずに終わり、周期の面に達した ray は反対面へ移って続く。周期軸では周期画像を含めて最初の命中を探し、放出位置を基本セルへ戻す。回り込みの回数には上限を置き、上限までに命中しない ray は粒子を生成しない。図6.2に、照射による可視面の選択と、電子の放出・帰還の電荷収支を示す。

照射 ray と光電子の電荷収支

図 6.2 照射 ray と光電子の電荷収支。左は平行な ray が凹凸に遮られる断面模式図で、命中しない ray は粒子を生成しない。右は q<0q<0 の電子についての符号を示す。放出後の軌道が再吸収と escape を決め、放出重みに事前の escape 率は掛けない。

開口面積 AapA_{\mathrm{ap}}、単位 ray 方向 d^\widehat{\bm{d}} に対する投影面積は

Aproj=Aap∣d^⋅nin∣.\begin{equation*} A_{\mathrm{proj}}=A_{\mathrm{ap}} |\widehat{\bm{d}}\cdot\bm{n}_{\mathrm{in}}|.\tag{6.5} \end{equation*}

バッチあたりの ray 数 NrayN_{\mathrm{ray}}、正の放出電流密度 JemitJ_{\mathrm{emit}} に対し、命中 ray の粒子重みは

whit=JemitAprojh∣q∣Nray.\begin{equation*} w_{\mathrm{hit}}= \frac{J_{\mathrm{emit}} A_{\mathrm{proj}}h}{|q|N_{\mathrm{ray}}}.\tag{6.6} \end{equation*}

命中しない ray は粒子を生成しない。ray 数を増やすと一粒子の重みが減り、照射積分の統計誤差が小さくなる。放出時に escape 率を重みに掛けるのではなく、生成後の軌道が再吸収と escape を決める。

放出の法線 ns\bm{n}_s は、命中した要素の法線のうち入射 ray と反対側を向くものとする。温度 TT から σ=kBT/m\sigma=\sqrt{k_{\mathrm B}T/m} を求め、法線速度は flux-weighted half-range Maxwell 分布(法線方向の drift を与えることもできる)、接線の 2 成分は平均 0、標準偏差 σ\sigma の Gaussian 分布(±6σ\pm6\sigma で打切り)から作る。放出点は命中点から ns\bm{n}_s 方向に 10−1210^{-12} m ずらし、放出直後の自己衝突を避ける。

放出時に放出元要素 ii へ −qw-q w を、吸収先 jj へ +qw+q w を加える。電子では放出によって正電荷が残り、同じ要素への帰還は相殺、別の要素への帰還は表面間の電荷移送になる。この移送は粒子の飛行によるもので、材料内の表面伝導ではない。

入射粒子が要素に吸収されたとき、そのエネルギーと入射角から二次電子を生成できる。入射粒子の実粒子質量を mm、衝突時の速度を v\bm{v} とし、エネルギーを eV 単位で E=m∣v∣2/(2e)E=m|\bm{v}|^2/(2e) とする。入射側を向く単位法線を n^\widehat{\bm{n}} とし、入射角の余弦を c=max⁡(0.1, −v⋅n^/∣v∣)c=\max\bigl(0.1,\ -\bm{v}\cdot\widehat{\bm{n}}/|\bm{v}|\bigr) とする。収率には Whipple の総説[19]に従う形

δ(E,c)=1.114 δmax⁡c(Emax⁡E)0.35[1−exp⁡ ⁣(−2.28 c(EEmax⁡)1.35)]\begin{equation*} \delta(E,c)=\frac{1.114\,\delta_{\max}}{c}\left(\frac{E_{\max}}{E}\right)^{0.35} \left[1-\exp\!\left(-2.28\,c\left(\frac{E}{E_{\max}}\right)^{1.35}\right)\right]\tag{6.7} \end{equation*}

を用いる[8]。δmax⁡\delta_{\max} と Emax⁡E_{\max} は最大収率とそのときの入射エネルギーであり、E≤0E\le0 では δ=0\delta=0 とする。低エネルギーで括弧内が桁落ちしないよう、指数が小さいときは級数で評価する。入射エネルギーと角度によらない一定の収率も選べ、こちらはイオンの入射にも使える。

一回の吸収で生成する macro 粒子数は、期待値 δ∣qin/qsee∣\delta|q_{\mathrm{in}}/q_{\mathrm{see}}| の整数部に、端数を確率とする Bernoulli 試行を加えたものである。各二次電子は入射粒子の重み winw_{\mathrm{in}} を受け継ぎ、光電子と同じ方法で速度を作る。法線速度は drift のない flux-weighted half-range Maxwell 分布、接線速度は打切り Gaussian 分布であり、温度は放出先の粒子種に与える。放出点は衝突点から法線方向に 10−1210^{-12} m ずらし、周期軸ではセル内へ戻す。

二次電子一個ごとに、放出元の要素へ −qseewin-q_{\mathrm{see}}w_{\mathrm{in}} を置き、光電子と同じ放出の電荷として扱う。入射粒子の吸収電荷 qinwinq_{\mathrm{in}}w_{\mathrm{in}} と合わせて、要素の電荷は放出した電子が運び去った分だけ変わる。生成した二次電子は同じバッチの固定された場で追跡し、吸収、escape、追跡上限のいずれかに分類する。二次電子自身の吸収からさらに二次電子を生成でき、一次粒子を世代 0 として世代数に上限を置く。上限の世代で生成するはずだった個数は診断として記録するが、粒子も反作用電荷も作らない。乱数は乱数の種、バッチ、MPI rank、親粒子、step、世代、放出順から決まるので、結果は thread 数や実行順序に依存しない。

このモデルは材質や物体による収率の違い、弾性・非弾性の後方散乱、表面伝導を含まない。入射角の余弦の下限 0.1 は斜入射での発散を避ける暫定の処置であり、斜入射での材料応答を表すものではない。