第 7 章 表面電荷更新と時間離散化
7.1 絶縁体への電荷蓄積
Section titled “7.1 絶縁体への電荷蓄積”粒子 が要素 へ最初に吸収されたとき、その粒子を追跡から除き、
を記録する。放出反作用と選択した closure の補正を含む電荷差分を、バッチ内の全粒子について集約した後に一度だけ反映する。絶縁体の基本更新は
である。光電子と二次電子(第6章)の放出元に置く反作用電荷は に含まれる。弾性・非弾性の表面散乱、材料内の伝導・拡散はこの吸収モデルに含まれない。
7.2 閉じた光電子の統計的帰還 closure
Section titled “7.2 閉じた光電子の統計的帰還 closure”反射境界によって光電子軌道を閉じても、追跡上限で未帰還が残ることがある。中性帰還 closure は、放出粒子の符号付き電荷 、解決済み再吸収 、未解決 に対して を確認し、帰還の deposit を 倍する。放出反作用の と合わせた表面総電荷増分は零になる。ただし総電荷が零でも、高さの異なる面の間で電荷が移れば、面平均した鉛直方向の双極子は残る。
この closure は、未解決粒子の帰還先が解決済み粒子と同じ分布を持つと仮定する。長寿命粒子が特定の表面や速度に偏る場合は、この仮定が成立しない可能性がある。放出があるのに帰還がない場合や実際の escape がある場合にはこの仮定を適用せず、未帰還率が を超える場合も適用範囲外とする。倍率と未帰還率は計算ごとに記録し、結果とともに示す。
固定電流 closure は、与えた電流 の目標電荷 に軌道から得た分布を合わせる別の closure である。光電子では放出と再吸収を別々に規格化する。大きい二電流の差である小さな正味電流を倍率の分母に用いると、標本誤差を増幅するためである。この補正は軌道から得た空間分布を使う一方、総電流の振幅は外部モデルから与える。倍率が安定でも、要素ごとの分布の統計精度は標本数で決まる。例えば帰還が一件しかなければ、帰還の目標の全量がその要素に置かれる。倍率が 1 から大きく離れる計算では、追跡ではなく closure の仮定が電荷分布を決めている。
7.3 浮遊導体の等電位化
Section titled “7.3 浮遊導体の等電位化”同じ物体に属する浮遊導体の要素電荷を、物体の総電荷を保ったまま、要素重心の電位が等しくなるよう再配分できる。バッチの場と同じ評価法で、導体要素 だけに単位電荷を置いたときの導体要素 の重心電位から、全電荷が零のときの電位(外場と電位の基準定数)を引いたものを influence coefficient とする。電位は電荷について affine なので、 は電荷に対する線形部分だけを表す。自由空間では
であり、2 軸周期場では周期画像、遠方作用素、零モード(第4章)の寄与も含む。導体 group の未知電位を 、絶縁体電荷・外場・電位の基準定数による電位を とすると、
を解く。geometry は固定なので、 と、この連立方程式の部分 pivot 付き LU 分解は計算の開始時に一度だけ作り、各バッチでは右辺だけを更新して解く。
この再配分は、吸収・放出後の各物体の総電荷を保存する。物体間に接触電流を流すモデルや、接地電位を固定するモデルではない。外部シースを接続して電位の基準を移しても、基準は定数として導体電位に加わるだけで、再配分には影響しない。基本の絶縁体計算とは区別して検証し、mesh の細分化に対する物体電位と表面電荷分布の収束を確認する。
7.4 バッチ幅の安定性
Section titled “7.4 バッチ幅の安定性”固定した に対する粒子応答を十分に平均できると仮定し、要素ごとの符号付き電流密度を とする。平均帯電速度 に対して、絶縁体の更新は概念的に
となる。 は有限標本に由来する電荷誤差である。滑らかな平均応答の仮定では、場を固定する更新は陽的 Euler 型の帯電離散化と解釈できる。
平均固定点 は を満たす。固定点の式に が現れなくても、離散更新が同じ点へ安定に収束するとは限らない。 に対する線形条件は
である。支配固有値が実負で単一の時間尺度 に近似できるときだけ、 が非発散、 が単調収束の目安となる。複素固有値、非正規結合、複数固定点にはこの目安をそのまま適用できない。図7.1は、単一の線形緩和に限った場合の単調減衰、交互減衰、増大を比較する。
の候補になる物理的な時間尺度には、速いプラズマ応答の目安である電子プラズマ周波数の逆数 と、表面電荷が変わる遅い応答の目安である帯電時間 ( は等価容量、 は電位に対する正味電流の感度)がある。実際の上限は geometry、電位、流入分布、表面応答にも依存するので、どちらかをそのまま の上限にはできない。また の分布は macro 粒子数と重みで決まり、 を変えると重みも変わる粒子源では、幅の比較に時間離散化の差と標本分散の差の両方が含まれる。幅の比較では乱数の種と並列構成を揃え、粒子数と重みも記録して、標本誤差が支配的なら先に粒子統計を改善する。
図 7.1 実負の固有値 を一つだけ持つ線形モデルの、バッチ幅による安定性の違い。各点は図中の漸化式から直接計算した値で、BEACH の帯電履歴ではない。全 panel の縦軸尺度は共通である。標本誤差、複素固有値、非正規結合は含めていない。
7.5 非零モードの適応幅と監視値
Section titled “7.5 非零モードの適応幅と監視値”周期場では候補電荷の変化に対して
を満たすバッチ幅を受理できる。不合格なら を試し、棄却した試行は乱数状態を含めて破棄する。この上限は固定した非零場の変化を抑える条件であり、局所打切り誤差の推定や全系の精度保証ではない。零モード、外部応答、粒子標本の誤差は別に評価する。
電荷変化の監視量は
である。 は監視量であり、計算の停止条件には用いない。小さい や大きな残留電荷によって比が小さくなる場合もあるため、これだけで正味電流が零、または平衡が達成されたと判断しない。